■はじめに
ブックレビューは、紹介する本を媒体として、思いついたことや、関心のあることを話したりすることを意図した集まりです。本の内容を正確に理解したり、筆者の主張を受け入れることよりも、本の紹介をきっかけに、それぞれに考えたり整理したりするほうがいいかと思っていますので、質問や思ったことはその場でいってもらって結構です。
■この本を選んだ理由
もともと名前はきいたことがあった本で、知り合いの方が内容が自分にあっていて受け入れやすかったとの話しと、京都にもあるギークハウスというネットやプログラミングなどが好きな人が集まるシェアハウスの発起人ということで、関心もより出て読もうと思いました。
■本書の概要
筆者がなぜ現在の暮らしをするようになったかという経緯、インターネットやシェアハウスをつかったネットワークのなかで、著者が発見したり工夫したりしている生活の成り立たせ方、著者からみた社会のあり方への提言やこの社会の常識に対して、知識として適切な距離をもつような書籍などの紹介がされている。
■本書の引用
「だるい。めんどくさい。働きたくない。小さい頃からずっとそう思っていた。「働かないと生きていけない」ということにどうしても納得がいかなかった。」3
「いや、毎日寝たいだけ寝ていても生きていける道がどこかにあるはずだ、と理由もなく信じていた」3
「今、33歳の僕は、28歳のときに、「インターネットさえあればニートでも楽しく生きていられるんじゃないか?」と思い立って会社員を辞めて、それからはずっと定職に就かずにぶらぶらと暮らしている。働いていたときに貯めていた貯金は二年で尽きて、今はネット経由で得られる僅かな収入を頼りに暮らしている。」4
「この本は、かつての僕と同じように、「人間はちゃんと会社に勤めて真面目に働いて結婚して幸せな家庭を作るのが当たり前の生き方だ」という社会のルールにうまく適応できなくて、しんどい思いをしている人が、いろんな生き方があると知ることで少しでも楽になればいいな、と思って書いたものだ。」4
→ ニートの一日
「特に退屈は感じていない。普通に生活をしているだけで一日が終わるというか、ご飯を食べたりマンガを読んだり昼寝をしたりインターネットをしたり、なんとなく過ごしているといつの間にか何日も過ぎている。自分のやりたいように生活をしていると普通に生活するだけで精一杯で働いている時間の余裕なんてない感じがする」26
→ニートは孤独か?
「自信を持って、全く寂しくない、と答えられる。むしろ仕事を辞めてからのほうが知り合いも友達も増えたくらいだ」29
「基本的に起きている時間の大部分はインターネットを見ているんだけど、ネットを見ればどんな時間でも知り合いや友達が何十人とそこにいる。そうした知り合いとチャットやツイッターやフェイスブックやブログで毎日喋ったりしているし、気が向いたらネット経由で、「飯食いに行こう」とか「ゲームをやろう」とか誘って実際に会うこともしょっちゅうある」29
「ネットだけではなく現実世界でも、僕はギークハウスと名づけたパソコンやネットが好きな人が集まって暮らすシェアハウスに住んでいるので、同居人や遊びに来る人たちと毎日顔を会わせたり喋ったりしている。」
「学校に行っていたり、会社に努めていたときも毎日人に会っていたけど、そのときは特に好きでもない人や気の合わない人にも会って会話しないといけなかった。」30
「僕は他人と長時間一緒にいると疲れるので、会社や学校に行っているとそんなに親しくもない他人と一緒にいることで対人エネルギーを使い果たしてしまい、仕事が終わった後や休日には本当に会いたい人と会う気力が尽きてしまっていて悔しかったりした」31
→ 学校
「学校になんて行かずにずっと部屋で一人で本でも読んでいたかった。」32
「学校にいる人たちは全員が自分とは違う人種に思えた。」32
「しかし学校を辞めて働くのはもっと嫌だったし、小学校→中学校→高校という一般的なレールから外れた生き方ができるほどの行動力もやりたいこともお金も人脈も当時の僕にはなかったので、とりあえずは嫌々ながら学校に通って、学校にいる時間の大部分を寝ているか本を読んでいるかでごまかしていた。」33
「暇潰しにゲーム感覚でもくもくと受験勉強をやっていたら偏差値が上がってしまった」
「安定したレールに乗っていくには、コミュニケーション能力とかバイタリティとか技術力とか、普通に人間っぽい能力が必要になってくる。社交性もないし、労働意欲もないし技術もない僕には、大学を出た後に行くあてはなかった」35
→ 会社
「計画通りにその職場はかなり暇だった。一日二時間か、三時間もあれば仕事は終わるし、あとはパソコンに向かって仕事をするふりをしながらインターネットをしていればいい。いわゆる社内ニートというやつだった」37 →それでも苦痛。決まった時間に起きること、通勤ラッシュの時間帯に出勤しないといけない、一日八時間ぐらい椅子に座ってないといけない。一日二、三時間でも興味を持てないことを作業するのは嫌で仕方がなかった。
→ インターネットとの出会い
2002年からブログを書くようになった。「顔も知らない人がコメントを付けてくれたりして、それはとても嬉しかった。」42
「喋るのが苦手で、人と対面すると緊張したりうまく思っていることを説明できなかったりして人と仲良くなるのが下手だったんだけど、ネットだと相手を直接前にしないので緊張しないし、文章だと喋るのと違って言いたいことを何回も推敲できるので苦手意識を持たずにコミュニケーションすることができた」42→友達がたくさんできた。
→ ツイッター
ブログに比べてコミュニケーションの敷居が低くて人とつながりやすい。知らない面白そうな人に声をかけて仲良くなるのも気軽にできた。→ツイッターがあれば会社を辞めても孤独になったり、社会から孤立しないでいられるのではと思うように。
→プログラミング
プログラミングを学んで「村上春樹風に語るスレジェネレーター」というジョークサイトを開発。人気があった。プログラミングでいろいろ作ってネットで公開していたら、お金も稼げるようになるかもしれないし、仕事を辞めても困らないかもしれない。
→ 仕事を辞めてもなんとかなりそうと思える3つの基準が満たされる
1 人とのつながり →会社に行かなくてもツイッターやブログでなんとかなりそう。
2 暇潰しにやること →手持ち無沙汰も虚しくなる。ちょっとくらい何かを生産したりアウトプットするような作業があったほうが毎日楽しくすごせる。→ブログ、プログラミング
で。
3 最低限のお金 →ブログやウェブサービスで月5千円の収入があった。もっとプログラムを覚えて本格的にサイトを作ったら、月に十数万も可能か?→ その後実際には7、8万程度に落ち着く。
→ ネットの面白そうな人と会ったり遊んだりするために東京へ。すでに知り合いがたくさんいたので不安はなし。登山用ザックを購入し、一週間の着替えとノートパソコンとモバイルルータをつめこんで、18切符で東京へ。その後しばらくはゲストハウスや安宿を点々と。
→ インターネットは、それほど頻繁には会わない友人や知人、会ったことはあるが、それほど親しくない人や一方的にこっちを知っている人などと、ゆるく広くつながりを維持できる。どんな人でもそういう知り合いは数十人から百数十人いるんじゃないか。54
→ツイッターで呼びかけたり、つぶやけば、誰かがご飯に一緒にいってくれたり、生活に必要な物資やお金までカンパしてくれることがある。リアルタイムでオープンにコミュニケーションできるツールとしてのツイッター。ツイッターによって、会っていない相手の日常や性格もわかりやすい。ネットからリアルをある程度把握できるようになりリアルでも会いやすい。63
生計
→毎年の収入は80万ぐらい。シェアハウスの管理人をすることで家賃をやすくすませ、食事は自炊中心。飲み会は家で。
→お金を稼ぐために作業をするというのがメインになるととたんにやる気が萎えてしまうので、大体は自分の作りたいものを作って、そこにおまけ程度に広告を貼るという感じ。68
→せどり。ブックオフで見つけた古本を転売する。1日1、2時間の仕事量で月に4、5万
ぐらいの収入に。時間の自由がきくし、どうせブックオフに立ち読みにいくし。最近はだるくなったがお金が必要になったらこまめにブックオフを巡ると思う。72
インターネットという新しい自然
→サイト作りもせどりも、時間を自分の自由につかえ、人と会わなくていいという2つの点を満たしていた。感覚として、山に入っていって栗でも拾ってきているような感じ。サイトをつくって広告をハルのは、川に罠を仕掛けて放置して、一日一回見に行くと魚が入っているような感じ。73
ネットでお金をもらう
→ 今お金に困っててヤバい、とか言うと、お金や支援物資が届くことも。アマゾンのほしいものリストに登録しておくと、その品物を贈ってくれることも。自分も500円と1000円とか、振り込む。そういう文化が定着してほしいのもあり、それが面白いのもあり。「「お金がないと生きていけない」「お金を稼ぐには働かなければならない」という事実に納得がいってない。憎悪しているといってもいい。」86、ということも。
東京には何でもある。インターネットは需要と供給をマッチングさせる。所有よりシェアのほうがローコストで身軽になる。ネットが更に発達し、流通が進化すれば、所有は必要なくなるのでは。94 →著者の社会的提言
ニートが成り立つ仕組み
→弱いものこそ集まろう。周りに相手をしてくれる人がいるようにコミュニティをつくる。ブログでしょっちゅう「働きたくない」と書いているとそういう人が集まるようになった。そういう人たちといると社会の常識に対して被害を受けにくい。ニートとフリーランスはそれほど違いがない。99 集まり、ネットワークができると急な手伝いやバイトの情報なども循環するようになる。ニートがいると留守番や荷物受け取りなどにも適する。一家に一ニート。
ギークハウスのはじまり
昔いた寮のような適度な距離に人がいる場所がほしかった。それならば自分でつくろうと思い立つ。「こういうコンセプトのギークハウスという家を作ってみたい」という記事を書いたら知り合いが、3LDKの空き部屋を紹介してくれる。→三人で住む。114
ツイッターとギークハウスの共通点 →「ある程度のオープンな空間で、それぞれが自分の好きなことをしながらもなんとなく共通の雰囲気を共有して、ときどき気が向いたら会話したりもできるという、ゆるいつながりの中にあると思う」119
「僕はいちいち人と喋ったり人と交渉するのが嫌なのでシステムをつくった」121
著者のおすすめの本・マンガ紹介
保坂和志「プレーンソング」、あずまきよひこ『よつばと!』、よしながふみ『きのう何食べた?』、うえやまとち『クッキングパパ』、真鍋昌平『闇金ウシジマくん』、西原理恵子『この世で一番大事な『カネ』の話』、工藤啓『「ニート」支援マニュアル』、中島義道『働くことがイヤな人のための本』ほか
30歳で著者がたどり着いた結論
「人はそれぞれ性質が違うし向いている場所も違う」
「世間で一般的とされているルールや生き方は、それが特に苦痛でない多数派の人向けのルールにすぎない
「努力が足りないのではなく適性が違うということを考えるべき」
「世間で一般的なルールに従わなくても、なんとか死なずに生きて、たまに谷か楽しいことがあればそれでいいんじゃないか」132、133
「だるい」を大切に
「「だるい」は、自分がやりたくないこと、自分が本当はやらなくてもいいことを見分ける重要な感覚だ」153
■この本を読んで
この本を読んでまず思ったのは、著者はとてもしっかりしているということだった。自分と現実をみた上での選択や工夫をしていて、自分がどのように苦痛であっても、また映画がみれないという体質上の個性があっても、だからといって、学校をやめたり、会社をやめず、先行きにある程度の確信を持ってから、行動を決めている。なぜ働かなければいけないか、という疑問は小さい頃からもっていたものであり、著者は自分の個性と「社会」との折り合いの悪さがありながら、自分という軸を失っていないということが彼の着実さになっていると思った。またインターネットという世界との関わりにおいて、まるっきり自分の周りだけではない大きな世界との交流によって、著者自身も変化し、導かれている印象を受ける。ネットを新しい自然というのもうなずける。ニート、ひきこもりといえば世界との関わりを失い、
それで自分の必要なもの、自分を先に進めるもの、自分の健康さ、抵抗力などを維持したりすることができなくなりそうだが、著者は世界との関わり、自然との関わりを失っていない。また著者が自分自身の社会的ポジション、発信者、助ける人、というような公共的な役割を自認しているようになっていくことも面白いと思った。著者は自分の特徴的な個性を引き受け、その切実さから逃げずに腰を据えている。だるい、という感覚をもっと大切にしていいのではないか、という提言からは、著者もつい気づかないうちに背伸びをしてしまったり、世間で評価されるうちに何かの役割と自分が同一化してしまうことに対しても、解毒するような重要性があるのではと思った。